大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)1238号 判決 1964年3月06日

控訴人 小竹貞子

右訴訟代理人弁護士 木村順一

被控訴人 ナシヨナルモータースこと 髙平助一

主文

原判決中、第三項及び第四項中前段部分を取消す。

被控訴人は控訴人に対し、一六一、八九六円及びこれに対する昭和三六年四月二一日以降完済にいたるまで年五分の金員の支払をせよ。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用中当審における訴訟費用、及び原審において控訴人被控訴人間に生じた分は、いずれも四分し、その一を被控訴人、その余を控訴人の負担とする。

本判決の第二項は、控訴人が五万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決主文中第三項及び第四項中前段部分を取消す。被控訴人は控訴人に対し、金六七五、二二六円及びこれに対する昭和三六年四月二一日以降完済にいたるまで年五分の金員の支払をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

≪以下省略≫

理由

一、被控訴人が控訴人主張の幌付四輪ジープ(大一す八二七三号)一台を所有していることは、被控訴人の認めるところであり、≪証拠省略≫によれば、被控訴人は自動車の修理、鉄工業等を営むもので、右ジープは被控訴人がこの事業遂行のため運行していることを認めることができる。

そして、控訴人主張の日時、場所において、控訴人主張の方向から被控訴人の使用人であつた田尻司が運転進行してきた前記ジープと、訴外吉田繁が運転し、後部荷台に控訴人の同乗したオートバイ(軽自動車)が衝突したこと、右衝突によつて控訴人が転倒し、重傷をうけたことは、いずれも被控訴人の認めるところである。

二、被控訴人は、右事故は被控訴人の営業の休みの日(日曜日)に起つたもので、田尻司は被控訴人の営業とは何等関係なく勝手にジープを運転して、右事故をひき起したものであるから、賠償責任を負わないと争うので、この点について考えるに、自動車損害賠償保障法三条に所謂「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したとき」とは、自動車を本来の用途に従つて利用するため所有する者が、自分のためにする運行によつて他人の生命身体に損害を与えたことを意味し、その自分のためにする運行は、所有者の意思に基づいてある目的のためにその自動車が運転される場合、及びそれと関連性をもつ意味において運転される場合は勿論、そのほか、広く抽象的一般的に所有者の運転と見られる場合には、すべてこれに含まれるものと解すべきである。ところで、本件においては、被控訴人の使用人である田尻司が被控訴人所有の前記ジープを運転して前記事故をひき起したものであることは、右認定のとおりである。かかる雇傭関係にある者が、その勤め先の自動車を運行した場合には、特別の事情の認められない限り、前記説示に従い、該自動車の所有者である被控訴人に、その運行によつて生ぜしめられた損害の賠償に任ぜしめるのを相当と考える。

三、次に、被控訴人は自動車損害賠償保障法三条但書に基づいて責任がないと主張するが、控訴人及び訴外吉田繁に過失があつたことを認めるに足る証拠はないから、この主張は採用できない。

四、本件については和解が成立したという被控訴人の抗弁は、一部この主張にそう当審の被控訴本人尋問の結果は信用できず、他にはこれを認めるに足る証拠はない。

五、そこで、損害額について判断する。

(一)≪証拠省略≫によれば、控訴人は前記衝突のため、(イ)第二腰椎圧迫骨折、左右前腰部打撲擦過傷、右側胸部打撲傷、右膝関節部打撲擦過傷を蒙むつたこと、(ロ)現在なお腰部に痛みが残り、通院加療中であること、(ハ)昭和三五年八月二一日から同年一一月五日まで入院治療費等に金二七、九九六円の支払をし(なお、控訴人は昭和三五年八月二一日から昭和三六年三月末日までに療養費金九五、七二六円の支払をしたと主張し、原審の本人尋問においてその旨供述しているが、その供述には具体性がなく、そしてその裏づけもないから、これだけでは控訴人の主張を認めるには足らない)、同額相当の損害を蒙むつたこと、(二)控訴人は、本件事故当時靴下の前かがり職をして、一日三〇〇円以上の収益をあげていたが、本件事故のため労働ができなくなつて、事故の翌日より昭和三六年三月二二日までに(二一三日)金六三、九〇〇円の得べかりし利益を失ない、同額相当の損害を蒙むつたことを夫々認めることができる。

(二)右(イ)(ロ)に認定した事実、前記認定した本件事故の態様及び当審の控訴、被控訴本人尋問の結果によつて認められる控訴人は五一才で、中学一年の子供をもつ母親であり、その夫の収入と自分の靴下の前かがり職によつて得る収入で手一杯の生活をしていること、被控訴人は大阪市内に二つの鉄工場をもつて工場を経営していること、その他諸般の事情に鑑みて、被控訴人が控訴人に対して支払うべき慰藉料の額は、金一〇万円を相当と考える。

(三)控訴人が被控訴人から三万円を受取り、これを本件損害賠償債権から控除すべきことは、控訴人の主張するところである。

六、そうすれば、控訴人は被控訴人に対し、右第五項に認定の損害額合計(右五項(三)は差引き)金一六一、八九六円及びこれに対する本訴状が被控訴人に送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和三六年四月二一日以降完済にいたるまで民法所定年五分の遅延損害金の支払をなすべき義務があるから、この限度において、控訴人の被控訴人に対する請求は理由があり、正当として認容すべきである。従つて、これと趣旨を異にする原判決は不当であるから取消すこととし、民事訴訟法九六条、八九条、九二条、一九六条一項を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安部覚 裁判官 松本保三 鈴木重信)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例